横尾忠則
ポスター・デザインの革命児からスーパーフラットの預言者に至るまで、 横尾忠則は眩暈のするようなキャリアを五十年以上にもわたり積み重ねてきた。三島由紀夫、オノ・ヨーコ、寺山修司、大島渚、草間弥生との親交もある横尾は戦後日本の黄金時代の数少ない生存者でもある。1981年にmomaで見たピカソの回顧展をきっかけに商業的な活動から身を引いて以来、横尾が絵画に全力を注ぎ続けているのは有名な話だ。永山祐子によって改装された民家での最新のプロジェクト「豊嶋横尾館」は2013年の瀬戸内国際芸術祭に向けて完成される。それは「必死に生きたものだけが上手に死ねる」という横尾の言葉にもある「死」への絶え間なき情熱を体現するものであると同時に、彼の作品を永久に展示する場所にもなる。
豊嶋横尾館の先行展を開催していたscai the bathhouseでインタビューは行われた。横尾の移り気はほとんど伝説となっており、インタビューを申し入れる際には気分次第ではまったく喋らないかもしれませんと念押しされたほどだ。インタビュー当日の朝、時間の変更を願う緊張気味のメールを受け取った。横尾が喋る気分かどうかはまだ不明だということだ。やがて横尾が到着する。社交辞令の挨拶はなく、乗り気のような雰囲気でもない。にわかに空気が張り詰める。しかし驚いたことに、横尾はまるで彼の姿無き相談役と無言で会話するかのように私の周りを何度か回った後、このぎくしゃくした出会いにも関わらず自らインタビューの口火を切り、私の質問が尽きるまで積極的に語り続けてくれたのだった。
死に対する考え方に変わりはありませんか?
変わる?いつと?昔なんて言ったか覚えてないけど、死に対する考え方は全然変わってません。不変です。
今、何か目標としているものは?
目標、そんなもんない。目的もない。結果も考えない。手段もない。そんなの自分で言えるもんじゃないよね。他人が決めるべきことで、自分が決めるべき問題じゃないと思う。過去のことじゃなくて、今やっていること、それがどういうふうに明日に繋がるかということは未知。考える必要はないね。
宇宙人に遭遇したことは?
いつも遭遇してるよ。死者だって、天使だって。してない方がおかしいよ。
連絡は取り合っていますか?
うん。だけど彼らは働きの中にあるのよね。そのことが知覚できないって人は損しているよね。
横尾さんは60年代のアイコンたちといつも関わってきましたね。
みんな死んじゃったね。
今でも付き合いのある人もいますか?
仕事で関わってる人は何人かいる。著名な方、多いですけれども、名前を挙げるってのは差し障りがあるからね。関わってる人たくさんいるから、名前を挙げると、そうじゃない人は友達じゃないとか、関わってないとか思われるから。
三島由紀夫さんに会いたくなることは?
いや、三島さんは亡くなったけれど、むしろ三島さんが生きていたころより身近に感じますね。
存在を感じるということですか?
うん、そういうこともあるけれども、そういう神秘的な、ミステリアスな、スピリチュアルなことだけではなく、三島さんが僕に対してサジェスチョンしたこと、そういったことが現在も僕にとって人生の中で学んでいるという感じはしますね。
作品に対して何度も手を入れるということについて、どのような考えを持っているのか教えてください。
あの、反復のことね、英語でなんていうんだろうね?リピートかな?ちょっとちがうね、それはね、前進するために常に必要なんですよね、自分の過去にあったことをもう一回見つめて、さらにそれを発展させていくっていう......尺取虫みたいにまっすぐすっといくんじゃなくて、水前寺清子の曲にそんなのあったよね(一歩進んで二歩下がる......)二歩下がっちゃダメだね(笑)そういうね、常に前を向くだけじゃなくて自分のすぐ後ろを振り向いて、もう一回それを反省したり、修正を加えたりすることによって前に進む、そのために前に作った作品をもう一度リピート、反復してね。
日本に留まっている理由は?
なぜでしょう(笑) 変な質問しますね。それは僕の宿命的なものと結びついてる。なぜ日本に生まれたのかということと密接に繋がるんですよね。宿命的なものだと思いますね。日本にいるということを必要としていると思いますね。そうでなかったら他の場所にいっていたかもしれないし。
スピリチュアルなものは生きる上で常に重要なものですか?
1967年にnyに行って、僕はドラッグもサイケデリックも何も知らない、知らないのに僕の作品をサイケデリックて言った人がいた。その時は意味が全然わからなかった。スピリチュアルってのは、人間は肉体を持つと同時に精神的な存在で、肉体だけでは存在しない、精神だけでも存在しない。肉体と精神がぼくのなかで統合されている、ひとつになっているわけです。なので分けるわけにはいかない。すべての人間の中にあるもので、それを排除することはできない。それに触れないで生きていくというのは不可能だと思うんですね。人間は本来が霊的存在でしょう。
来世のご予定は?
あのね、今生で充分。たぶん生まれ変わらない。でももし生まれ変わったら、宝塚の男役になりたい。今下にあった絵で三人の人が踊ってる絵があったでしょ?あのふたりは男装した女性。
ええ、気付きました。横尾さんは本当にジョーク好きで......
ジョークは生きていくためのサプリメントだからね。
では、お得意のジョークをどうぞ。
僕はジョークは一日中言ってるから、つまり本音をね。今このインタビューでもいくつかジョーク言ったはずなんだけど。わからなかったかもしれないけれど(含み笑い)。
今まで生きていて一番興奮したことは......
やっぱり自分の描いている、絵だね。
スピリチュアルな修行をしたことは?
昔やったことあります。禅寺に一年間入ってましたから。禅寺で修行、ほとんどお遊びの修行でしたけどね。だって人間は遊ぶために生まれてきたんだから。
今は止めてしまいました?
参禅は一年間。日常そのものが修行ですよ。
アップグレードした感覚はありましたか?
グローアップじゃなくて、グローダウンもね。グローダウンすることも大事だからね!(笑)
もしチャンスがあれば何か別のことをしていたかもと考えることは?
ああ、そういう後悔は一切しない、まったくしない。全部過去を肯定します。
さすが。歌は歌いますか?
ヘタ。喘息だからね、歌はね、これ音が伸びないんですよ。ぷつぷつぷつと切れちゃって。
好きな食べ物は?
アンコ(笑)
甘党?
たいやき、どらやき、ぜんざい、おはぎ。西洋のものはねダメなの。あと、ショートケーキとかチョコレートとかダメだね。
だから日本にいるわけですね!
わかってるね、ばれた。そのとおり。
ニューヨークにおいしいアンコはないですからね。
あなたのジョークはなかなか大したもんだ(笑)
俳優としての経験からの影響は?
影響はね、男優主演賞をとれなかったのが残念だね(笑)
それは残念。
うんまあね、監督が大島渚だからね。やっぱり映画に出ると、あれは芸術映画だからさ、芸術映画よりももっとエンターテイメントに出たかったね。
初期のころから自分自身や個人的な体験を表に出していますよね。なぜなのでしょうか?
アメリカの作家・ノーマンメイラーが『僕自身のための広告』って本を書いたんですよ。その本のタイトルをいただいて僕自身のための広告をやってみようと思って作品を作っています。ものを作るってことは他人から出発するのではなくて、自分自身から出発するわけです。まず自分を知るっていうことが重要なんですね。だから自分から出発してるわけです。他人が作るわけじゃなくて自分が作る、わたくしから出発して、最終的にはわたくしが抹消されていく。でなきゃ普遍的にならない。
ピンクにはこだわりが?
ピンクってかわいいじゃないですか。
初めの頃は今ほどピンクを用いていなかったように思います。
高校の頃ピンクのシャツ着てましたけどね。今はみんな着てるけどね。
ピンクが大好きということですね。
(足を上げて)今日は午前中はね、ピンクの靴下履いてましたけど。今着替えてこれ履いてきたけどね。
今でもお気に入りの色ですか?
絵の中にピンクを描くか、描かないかは別なんですよね。色としてすごく愛すべき色だと思うんですよ。66年に描いた女の絵のシリーズは人呼んで「ピンク・ガール」ですね。ピンクは挑発的な色でもありますね。
男性と女性でどちらが好きですか?
そりゃ女性に決まってるじゃないですか。ばかな質問するなよぉ!(笑)
ペインティングとデザインでは取り組み方は異なりますか?
今デザインをするってチャンスがほとんどないんですよ。自分の展覧会のポスターくらい。デザインを作るときと絵を作るときの感覚は分けられないね。
コラージュ的な技法はほとんど横尾さんのトレードマークですね。
子供の頃はね、人の絵を見てずっと模写していたんですよ。だけどある時から描くのを止めて、その絵を切り抜いて貼り付ける、描かなくて済む。そういったことと、いろんなものを、およそ別の合わないものを合わせる。これ、シュルレアリズムのデペイズマン。コラージュへの興味、イコール、デペイズマンへの興味なんですよ。
背景は暗いものが多いですね。
闇がすきなんだよ、黒って言うより闇。闇の中から生まれてきて、闇の中へ死んでいく。僕の出発と到達なんですよ。
質問も時間もそろそろ尽きてきましたが……横尾さんは満足ですか?
もちろん。明日はわからないけど。
実に移り気ですね。
あとそうね、10分後くらいに不幸せなことが起きるね。だってトークショーで人がいっぱいくるからね。
エキサイティング?
ノット・エキサイティング(笑)アイ・ウォントゥ・エスケープ。
いいね、逃げましょうか?
ウィズ・ユー? ナウ?
もちろん!(笑)
momaでは、申し訳なかったね。このまえね、声が出なかったんですよ。今日のクエスチョンはクリエイティブでおもしろかった。アンサーよりクエスチョンのほうがよっぽどおもしろい。
ありがとう。
インタビュー・写真:アンドレイ・ボルド
通訳:マツバラ・メイ
翻訳:タムラ・マサミチ
2012.10.01
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© andrey bold