andreybold interview-chimpom


chim↑pom

chim↑pomのメンバーを集めることはそれだけで大仕事だ。数々の電話とメール、そして一度のキャンセルを経て一ヶ月かけて遂に実現したインタビューの待ち合わせのため、とある土曜日の午後2時に渋谷ハチ公前へと向かった。小雨の降る曇りの肌寒い日のことである。一人づつ姿を現すメンバーのうち少なくとも三人がアディダスのアイテムを身につけていた。どうやら親切なアディダスが彼らに好きなアイテムを選ばせてくれたようだ。そうこうするうちに6人のメンバーのうち4人が集まった。リーダーの卯城竜太、林靖高、岡田将孝、稲岡求。グループの顔であり唯一の女性メンバーであるエリイ、そして残るメンバーの水野俊紀は欠席だ。そして卯城が指名した通訳の田村が一行に加わり、インタビューのできる場所を求めて30分ほど冷たい小雨の中を彷徨うも、結局のところ落ち着いたのは騒々しいチェーン店のコーヒーショップだ。用意された録音機には何故かポラロイドのロゴ。誰かがおもむろに口を開く。
じゃあ、始めようか」。

まずは成り立ちから、(卯城に)mcとして活動を始めたというのは本当?

林:ラッパーね。
卯城:あれはラップっていうか......なんて言うべきかな?

田村:歌手?

卯城:いやいや!
林:アジテーター?
卯城:それだ!mcアジテーター!

林くんは?

林:dj、ま、三回しかやってないけどね(笑)

すると卯城くんと林くんの二人がchim↑pomの生みの親ということ?

卯城:いや、俺らがエリイちゃんに何かいっしょにやろうよって言ったんだよね。

じゃあ、アーティストとしてどうしようというよりも、とにかくエリイといっしょに活動しようという始まり方かな?

卯城:うーん、俺らは全員アートは好きだけど......初めはどうやってやっていくか具体的には決め込んでなかったね。アートといえばアートだったのかもしれなかったけど(笑)

つまり、何かしらのモデルやコンセプトから始めたわけではない。

卯城:特にはないね。ただ、当時の根暗なアートシーンにエリイちゃんらしさを持ち込むことで、何かおもしろくて新しい化学反応が起きるんじゃないかと期待してた。今まで誰も見たことがなかったようなもの。でもギャルっぽさだけで完結するのは一面的で予定調和すぎるから、さらに多面的な突然変異を期待して6人のメンバーになった。で、あとは「chim↑pomとは何か」みたいな活動のコンセプトはやりながら見つけてきたかな。

名前を決めたのは?

卯城:エリイちゃん。

人を驚かせようという意図は?

卯城:いや、よくわからないけど響きがよかったんじゃない?(笑)

chim↑pomとして初めての作品は?

卯城:「エリゲロ」(エリイがピンクのゲロを吐くビデオ)

日本のアート界にとってchim↑pomとは?

卯城:日本のアート界をchim↑pom抜きで語るのはムリだと思うよ。別に主観的に言ってるんじゃなく、もはや......
林:受け入れざるを得ない
卯城:chim↑pomは日本のアートをかなり更新したと思うけど、俺はまだまだだ満足できてはいないよ。けど、だからって、日本のアートシーンに変に責任を持ってどうにかしたいってよりは、むしろもっともっと挑戦的な状況に自分たちを投げ込んでいくほうがおもしろい。何か新しいことを始めたときにぶち当たる色んなことを乗り越えるのが楽しいよね。どこまでいけるか、みたいな。たとえばワタリウム、どうやってストリート・アートと美術館の壁を繋げられるか考えなければいけなかったりね。

欧米と比較して日本のアートは?

卯城:めっちゃしょぼいでしょ、ほとんどカスだよね(笑)それは今度夏に出る『芸術実行犯』って本でも書いた。

田村:足りないのは何だと思う?

卯城:たくさんありすぎて全部挙げていったらきりがないね。でもそれは強みにもなるはずだから。ざっくり言うと、日本のアートシーンは「世界標準」みたいなものは頑張って追い求めても実現できないと思う。コレクターも少ないしなんだかんだアートも根付かないし。だけど代わりにそれで開き直った人たちは何だかアグレッシブにやってて面白いよね。韓国でアジア・アート・アワードに参加したときにそれをすごく感じた。すっかり西洋化されていて「西洋の視点」を念頭に作られてる。世界中がやりたがってる「標準」だよね。でも既視感があるから二軍っぽいっていうか(笑)。その図式をどこかのブログが川の上流と下流にたとえていて、こんなことを言ってた。欧米のアートシーンは上流で、そこから下に流れてくるものを捕まえるのは簡単なんだけど、下流から逆に上流に行くのはすごく難しい。そのとおりだと思って、村上さんはそのためにがんばったし成功もした。だけど、こんな話もうずっとやってるじゃん。いつまで続けるんだよって。アートは川ってよりはもっと海みたいであるべきだと思う。色んな流れが合流して、世界中を漂流して、それそれの場所にその土地ならではのありかたで流れ着く。日本が「世界標準」を求めても、その上流/下流の話になっちゃうし、それは意味ないよね。
林:おっと、ここで言わせてもらおうかな。つまり、たとえ日本のアートシーンが欧米から見て遅れているように見えていたとしても、文化的にいいとこもあって・・・・
卯城:で?
林:え!?「で?」ってひどくね?!長いからわかりやすく言ってみたの!
卯城:ちょっと!せっかく良いこと言ってんのに上手くまとめないでよ!(笑)
岡田:アートは日本人にとってリアルに根付いたものじゃない。今でも超マイナーな業界だし。ただ日本には現代アートがいらないくらいおもしろいものがあるって話で、たとえば......
林:(手を挙げ)はいっ!それ、俺がさっき言ったよね?!
岡田:(無視して)......マンガ、アニメとかね、いいものが色々あるよね。
林:だから!俺がそれさっき言ったじゃん!
(一同爆笑)

chim↑pomの活動を続けていて、人々の意識が変わったと感じることは?

林:エンタメにばかり夢中だった人も震災以降はアートの有効性に可能性を見いだしてchim↑pomを真剣に見てくれるようになったと思う。ただ、chim↑pomそのものは変わってない。

そうは言ってもchim↑pomも変わったと感じます。

卯城:基本的な姿勢は相変わらずだよ。何か新しくておもしろいことをしたいだけ。

chim↑pomはいつも新しいことに挑戦して、単に「売れる」作品に興味もないだろうから、今のマーケットで成功するのは大変だと思うけれどどうですか?

卯城:それは藤城さん(chim↑pomの所属する無人島プロダクションのオーナー)に聞いて!ただ、たぶんこれから数十年でギャラリーと美術館のモデルは徹底的にアップデートされると思う。作品を展示して、人々にいろんなことを考えさせる、それをギャラリー内で完結させるという伝統的なありかたももちろん残るだろうけれど、また別のタイプのアート、たとえばドクメンタでの屋外の作品のようなものが、将来的には今よりもずっと当たり前のものになっていくべきだと思う。美術館は自分の敷地を越えて周囲の環境やインターネットに至るまで、そうしたプロジェクトをコーディネートするいわば「センター」として機能することになるはず。「サイト」から「センター」って感じ?例としてまだ緩いけど、アートナイトとかで森美術館が六本木の街に入り込んでいるみたいにね。今は屋外やオンラインの作品を売ることは難しいだろうけれど、システムがひとたび変わってしまえばchim↑pomみたいな活動をサポートすることも難しくなくなっていくと思う。それが近々の未来のギャラリーや美術館の使命だね。

放送局やウェブや新聞のような自分たちのメディアを作ろうと考えることは?

卯城:もちろん、できるならすぐにでもやりたい。でも既成のメディアに介入することの方が面白いかも。

自分にインスピレーションを与えてくれるものは?

岡田:テレビ。
(一同爆笑)
岡田:なんていうか、完全にテレビ中毒だったね。テレビ最高。テレビ見過ぎて途中から番組じゃなくて、テレビから放射される電磁波を浴びるのが気持ちよくなってた。好きな番組?料理番組。
林:音楽、サブカル、マンガ、ネット、本、映画、演劇、もちろんアート、あと女の子。
卯城:好きな女の子のタイプは?
林:おっぱい大きい子がいいね。
稲岡:手塚治虫。
卯城:カムイ伝。サンタクロースからもらったクリスマスプレゼントがカムイ伝だった。

chim↑pomでの各々の役割は?

岡田:これといって何もないなぁ......
卯城:岡やんはアイデアマンだけど、さらに皆が出すアイデアの甘さとかのチェックもしてる。
岡田:東京タワーから直接アイデアを受信してるからね。
林:俺は編集とデザイン。
稲岡:......彫刻?
卯城:あとパフォーマーだね。それも過激な......
稲岡:燃えたり?(a.r.t.の企画による「chim↑pomのイケイケアクション」でのchim↑pomの最初のパフォーマンスで稲岡は自分に火をつけた)
卯城:飢えたりね!(笑)(「メイキングオブ即身仏」で稲岡は絶食を行った)
稲岡:それ特技じゃないから!
卯城:(笑)

卯城くんは?

卯城:俺はリーダー。このグループまとめるの大変なんだよ!これができたら首相だってやれるって!

ここに今いない二人については?

卯城:水野の役割は......
岡田:体を張ることだね。作品に登場する回数多いし、a面がエリイちゃんだとしたら、b面を担ってると言えるかもね。

エリイは?

卯城:カリスマ。
岡田:存在がチート過ぎるし、そんなメンバーがchim↑pomにいることは超ラッキーだと思う。

エリイのグループでの役割は?

卯城:生きる芸術でしょ。

みんなはエリイちゃんを支える裏方で満足ということ?

卯城:chim↑pomは一心同体だからね。ってか裏方って言うほどエリイちゃんありきでの作品ばっかじゃないよ(笑)

活動していくうちにメンバーの間で変わってきたと感じたことは?

卯城:水野がダメになってきた。
岡田:どんどんダメになるね。最初の頃はバカで面白いヤツだったのに、今では超フツウになってしまい......。
卯城:そうそう、俺らは進化したのに水野だけ退化した!

自分たちと繋がりを感じられるのはどんな人たちですか?

卯城:「ああ、日本的だね」とか「同時代だね」で終わっちゃう人はダメだね。俺たちが作品を通して歴史や国際的な問題について発信していることをわかってくれる人。つまり、ある地域で起きていることを広い視野から理解できる人かな。

グローバル化について思うことは?

卯城:明らかに悪いこともあるけど、悪い側面にだけ興味を示したりはないかな。俺たちは日本に住んでいて、日本でやるべきことをやっている。同じことが他に国にも言えるよね。まあ、どちらかといえば良い側面に注目するのが好きだけど、悪い側面から着想を得ることもあるし、実際にそれは俺たちの作品の一部にもなってる。

田村:ウェブのプロフィールだとchim↑pomは「生と死」を主題にしていることになってるよね。

卯城:あれ誰が書いたのかわからないんだよね!

卯城:とはいえchim↑pomの作品はいつも何かしら「生と死」に関わってると思うけど。

卯城:まあね!中途半端なのは嫌いだからさ、おもしろいものを追求していくと結局は「生と死」に行き着くんだよね。あとは「過去と現在」とか、相反するものがひとつになったときに人はスリルを感じるじゃん?そういう不安定さとか、危うさみたいなものがアートの本質だと思う。俺たちは生きることの楽しさを表現したいんだけど、ただ喜びだけでは一面的すぎて、薄っぺらいよね。生きるってことは死ぬってことと表裏一体だから。生と死は対極にあるけど、一対のものでもある。その両方の極のあいだのギリギリのラインからしかスリルは生まれないと思う。

フクシマに行ったときのことを聞かせてください。

卯城:あれはもう二度とごめんだね!絶対、マジで。旗を立てるために原発に向かうときの気持ちといったら......あれは「スリル」なんかじゃなくて「恐怖」だった。とにかく怖かった。作品が完成したらすぐにでもその場を離れたいという気持ちでいっぱいだった。

田村:chim↑pomはいつも楽しんでプロジェクトをやっているけれど、福島だけは唯一楽しめなかったと前に言っていたね。

卯城:そう!どうしてもあれだけは楽しめなかった。

フクシマ以降、日本人が変わったと感じることは?

卯城:あるね。無意識だけど、誰もが変わった。この衝撃的な原子力の危機はみんなの無意識に留まり続けると思う。それはあるとき再び目の前に現れて、若い人たちにとって決断を迫るはず。上の世代の人も変化するかどうかはわからないけれど、変化のきっかけになるものだと思ってる。

「chim↑pom?いいと思うけど......」という含みのある評判をよく耳にします。たとえば「level 7 feat. 明日の神話」にしても瞬く間に評判になったけれど、chim↑pomの仕業だとわかるなりガッカリする人もいました。

卯城:その「けど......」の部分がいいと思うけどね。それがないとおもしろくないじゃん。「最高!」とか「やばい!」とかよりもずっと嬉しい反応だよ。「けど......」があって初めてリアルなものになれると思うし、そこから始まるものがあると思う。今後の活動でもその「けど......」に付き合っていたい。

もしかして、わざとやってる?

卯城:まさか!そんなわけないって!(笑)

フクシマ関連の作品のようにシリアスなものに関わる一方で、まるでjackassのようなクレイジーさもありますよね。その根底にあるものは?

卯城:予期できないものの持つ衝撃みたいなものが人の心を捉えるうえで必要だと思う。自分にとっても。だから俺たちはノリをすごく大事にしている。

発端となるエネルギーの方が結果よりも重要ということですか?

卯城:その通り!アートに関していえば、「アクション」という英語は初めに「行為」と日本語訳されたけれど、chim↑pomの「アクション」が体現してるのは「行動」なんだよね。日本のアート界では「行為」がずっと優勢で、chim↑pomの「アクティビティ」はアートじゃなくて「ジャーナリズムにすぎない!」と不評だったりするけどね。

みんな30台前半だけど、家族や子供などについてタイムリミットが近づいてきたと感じることは?

卯城:うちの家族はもう諦めてるね(笑)
林:ちょっといいかな?それってchimpomじゃなくて、俺ら個人の問題じゃね?
岡田:chim↑pomがなかったら今ここに集うこともなかったわけだし......
林:むしろ俺らはchim↑pomのおかげでマシな人生を送ってるんだよ!
卯城:今日ついに林が良いこと言った!
(一同大爆笑)

日本について今一番興味のあることは?

卯城:富士山が噴火しそう!テレビの特番で見たけど本当に起きそうなんだけど。
(全員が富士山の話で盛り上がる)
卯城:地震も増えたし......やばいね。そんな状態で原発再稼動なんかしたら......どうなっちゃうんだろう?

それはエキサイティングな話題?!

卯城:まあね、けど......

怖い?

卯城:うん(笑)

死ぬことに対する恐怖は?

卯城:もちろんあるよ!
岡田:痛いのはやだね
稲岡:死からは逃れられない
岡田:tv観ながら死ねるならいいけど
稲岡:俺は生き残りたい
卯城:まだ死ぬには早いかな

もし仮にバラバラになってしまって、全員のパーツを合わせて一人だけが生き残れるなら、誰がどの部位になりますか?

卯城:そりゃエリイちゃんでしょ!エリイちゃんの体で、エリイちゃんの性格!俺ら?もちろんいるけど手足とかじゃなくて(笑)
つまり?

田村:つまり?

卯城:エリイちゃんの脳みそのchim↑pomについての部分にいるだけ!みんなでアイデアを出して、林はエリイちゃんの編集能力に貢献して......

みんなそれでいいの?

全員:(同時に頷きながら)やっぱエリイちゃんでしょ。
卯城:生き残ってほしいよね。
林:まあ、エリイちゃんだけは勝手に生き残ると思うけどね!
卯城:(顔をしかめて)水野も生き延びそうだなあ......ゴキブリみたいに。(笑)。まあそれはそれで。(笑)

今後の展望は?

卯城:今のように活動を続けていくこと。もし俺らが「よくがんばったね!」みたいに今までしてきた「努力」だけで賞賛されたら、それはこれからの世代に対して何の貢献にもならないよね。活動を続けていって成功することが大事だと思う。

chim↑pomにとっての「成功」って?

卯城:chim↑pomがアートの歴史の一部となってずっと残ること。
(一同沈黙)
卯城:あれ、何か間違ったこと言った?まあいいや。ちょっとまたポスト3・11の話をするけれど、俺らが今興味を持っているのは日本のアーティストがよりアヴァンギャルドになってきていることかな。身体というものをもっと意識するようになってきて、絵画よりも直接的なアクションに向かってきていると思う。それは「アングラ」の伝統にも似ていて、ちょっとおどろおどろしい感じなんだけど、アヴァンギャルドでありながらも一般の人々にとってもより訴えかけることができる。この流れは次の世代にかけてどんどん強くなると思うし、彼らにとってchim↑pomはひとつの重要なモデルになるかなと期待してる。

ここでchim↑pomキュレーションによりワタリウム美術館で開催中の「ひっくりかえる」展の週一イベントのため、タクシーを捕まえて全員でワタリウムへと向かった。chim↑pomを体現するエリイとはワタリウム美術館の地下にあるカフェで合流。髪を青く染めたエリイのファッションにアディダスのロゴは見当たらない。

田村:今一番刺激を受けるものは?

エリイ:そりゃchim↑pomでしょ。

田村:今日本で一番エキサイティングなのは?

エリイ:(ケーキを食べながら)アタシ。

田村:え?

エリイ:(自分を指差しながら)アタシ。

chim↑pomでの自分の役割は?

エリイ:全人類の幸せを願う。ね、林。
(林うなずく。)

インタビュー:アンドレイ・ボルド、タムラ·マサミチ
写真:アンドレイ・ボルド
2012.06.23

© andrey bold